患者様専用電話 アクセス
診療時間
症例紹介

コラム

Column

セラミックの色合わせ、誰にでもできるわけじゃない?歯科医の技術がカギです|さいたま市北区宮原の歯医者・歯科で審美インプラント治療|関口デンタルオフィス埼玉

セラミックの色合わせ、誰にでもできるわけじゃない?歯科医の技術がカギです

目次

 

なぜ?天然の歯と全く同じ色のセラミックを作るのは至難の業

はじめに:セラミック治療で後悔しないための「色」という最重要要素
セラミック治療によって、機能的で美しい口元を手に入れることは、日々の生活に自信と輝きをもたらしてくれます。思いきり笑ったり、食事や会話を楽しんだり、口元を気にしない毎日は想像以上に快適なものです。しかし、その満足度を最終的に決定づける、非常に繊細で重要な要素があることをご存知でしょうか。それが、セラミックの「色」です。虫歯治療で使われる詰め物や被せ物の形がぴったり合うことはもちろん大切ですが、特に人目に触れやすい前歯などの審美領域においては、この「色合わせ」が治療の成否を分けると言っても過言ではありません。せっかく費用と時間をかけて治療に臨んだにもかかわらず、「なんだか色が白すぎて浮いて見える」「周りの歯と馴染んでいない」といった結果になってしまっては、心から満足することは難しいでしょう。この記事では、なぜセラミックの色合わせは専門的な技術を要するのか、そして後悔しないために患者様ご自身が知っておくべきことは何かを、わかりやすく解説していきます。あなたのセラミック治療が最高の笑顔に繋がるよう、その第一歩として「色」の重要性について一緒に考えていきましょう。

 

・人間の歯はそもそも「一色」ではないという事実

「歯の色」と聞くと、多くの方は単純な「白」をイメージされるかもしれません。しかし、一度鏡を持って、ご自身の歯をじっくりと観察してみてください。特に前歯に光を当てて見ると、決して白い絵の具を均一に塗ったような色ではないことにお気づきになるはずです。実は、天然の歯というものは、非常に複雑な色の層が重なり合ってできています。例えば、歯の先端部分は少し透明感があり、背景の口の暗さを透かしてやや青みがかって見えることがあります。一方で、歯ぐきに近い根元の部分は、歯の内部にある象牙質(ぞうげしつ)という組織の色が強く反映されるため、少し黄みがかったりオレンジがかったりしています。さらに、歯の表面には肉眼では捉えきれないほどの微細な凹凸や、成長過程でできるしま模様が存在することもあります。これら「透明感」「色のグラデーション」「表面の性状」といった要素が複雑に絡み合い、生命感あふれる自然な歯の色を創り出しているのです。セラミックでこの生命感を再現するためには、単に「A2」や「B1」といった色見本の中から一つを選ぶような、単純な作業では決してないのです。

 

・隣の歯、歯ぐき、唇の色…。「調和」から生まれる自然な美しさ

一本の歯が持つ色の複雑さに加え、セラミックの色合わせをさらに奥深くしているのが、口元全体との「調和」という観点です。たとえ一本のセラミックを完璧な色合いで製作できたとしても、それがお口の中に入ったときに美しく見えるかどうかは、また別の話になります。なぜなら、その歯は単体で存在するのではなく、両隣の歯、噛み合う向かいの歯、そしてそれらを取り囲む歯ぐきや唇、さらにはお顔全体の肌の色といった、様々な要素の中でその役割を果たすからです。例えば、両隣にあるご自身の歯の色と全く同じ色を目指すのは基本ですが、その歯が少し黄みがかっている場合、患者様のご希望によっては、セラミックを少し明るくして、隣の歯もホワイトニングでトーンアップさせることで、全体の調和を図るというアプローチもあります。また、歯ぐきが健康的なピンク色なのか、少し暗い色調なのかによっても、歯の色の見え方は変わってきます。歯科医師や歯科技工士は、治療する一本の歯だけを見るのではなく、唇の動きや笑った時の歯の見え方までを計算し、口元という一枚の絵画を仕上げるように、あなたに最も調和する色を導き出しているのです。

 

「なんだか浮いて見える…」セラミックの色合わせでよくある失敗

・ケース1:周りの歯から隔離されたような不自然な「白さ」

「せっかくセラミックにするなら、できるだけ白い歯にしたい」というご希望は、私たちが日々患者様からお伺いする、とても自然な感情です。しかし、その「白さ」への憧れが、時としてセラミック治療の失敗に繋がることがあります。それは、周りの歯との調和を無視した、一本だけが際立ってしまう「孤立した白さ」です。例えば、日本人の天然歯は、純白というよりは少し黄みがかったアイボリー系の色調であることが多いです。その中に、海外の俳優さんのような青みがかった真っ白なセラミックを一本だけ入れるとどうなるでしょうか。その歯だけがまるで付け歯のように浮き立ち、お口全体の自然な一体感を損なってしまうのです。芸能人のような輝く白い歯は、多くの場合、多数の歯を同時に治療し、全体のトーンを統一することで実現されています。一本だけを治療する場合、目指すべきは「絶対的な白さ」ではなく、ご自身の肌の色、唇の色、そして何より隣り合う歯の色と見事に調和した「相対的な美しさ」です。私たちは、プロの視点から客観的な色のバランスをご提案し、あなたのお顔の一部として最も美しく見える、オーダーメイドの「白さ」を一緒に見つけていきます。

 

・ケース2:絵の具を塗ったような「のっぺり感」と透明感の欠如

「色は合っているはずなのに、なぜか偽物っぽく見える…」これもまた、セラミックの色合わせにおける典型的な失敗例の一つです。その原因は、天然歯が持つ特有の「透明感」や「質感」が再現されていないことにあります。思い出してみてください。天然の歯は、光が当たると先端部分がほのかに透き通って見えませんか?それは、歯の表面を覆う半透明の「エナメル質」と、その内側にある少し色味の濃い「象牙質」という二層構造によるものです。この複雑な構造が、光を内部で乱反射させ、生命感あふれる深みと奥行きを生み出しています。しかし、この繊細な質感をセラミックで再現するには、非常に高度な技術が求められます。もし、この工程が不十分だと、まるで白い絵の具をベタっと塗っただけのような、人工的な「のっぺり」とした印象になってしまうのです。それは、美しい天然歯というよりは、無機質な陶器に近い質感かもしれません。私たちは、この「生命感の再現」にこそ、セラミック治療の真髄があると考えています。高品質なセラミック材料を選び抜き、熟練の歯科技工士が何層にも色を重ねて焼き上げることでしか到達できない、吸い込まれるような透明感と質感を追求しています。

 

・ケース3:完成直後は良かったのに、時間が経つと気になりだす色の違和感

セラミックの歯がセットされた直後は、その白さと美しさに心から満足していたはずなのに、数ヶ月、一年と経つうちに「あれ?なんだかこの歯だけ色が違う気がする…」と感じ始めるケースも少なくありません。これは、決してあなたの気のせいではないのです。この現象の主な原因は、セラミックの歯ではなく「周りの環境の変化」にあります。セラミックは陶材であるため、飲食物による着色や経年による変色はほとんど起こりません。しかし、その隣にあるご自身の天然歯は、コーヒーやお茶、ワインなどの影響で少しずつ着色が進んだり、加齢によって象牙質の色が濃くなったりして、徐々に色調が変化していきます。すると、色の変わらないセラミックだけが相対的に白く見え始め、徐々に色の差が目立ってくるのです。また、加齢などによって歯ぐきが少し下がると、今まで隠れていた歯の根元部分が見え、セラミックとの色の境界線が気になりだすこともあります。私たちは、治療計画を立てる段階から、こうした長期的な変化の可能性まで考慮に入れています。数年後のお口の状態まで見据え、最適な色調をご提案すること、そして定期的なメンテナンスで隣接する歯のクリーニングを行うこと。これらを通じて、治療後も長く続く本当の満足をご提供したいと考えています。

 

歯の色は”一色”ではない!複雑な構造が創り出す天然歯の色彩

・表面の透明感を生む「エナメル質」の役割

私たちが「歯」として普段目にしている表面の白い部分は、「エナメル質」と呼ばれる組織で覆われています。人体で最も硬いとされるこのエナメル質ですが、実はその色自体は「半透明」で、まるで磨りガラスのような性質を持っています。この半透明性こそが、天然歯の美しさの根源であり、生命感を演出する重要な鍵を握っているのです。光が歯に当たると、エナメル質を透過し、その内部にある象牙質に到達します。そして、象牙質で反射した光が、再びエナメル質を通って私たちの目に届く。この光の透過と反射のプロセスが、歯に独特の深みと奥行き、そしてみずみずしい透明感を与えているのです。若い方の歯が特に白く、透明感にあふれて見えるのは、このエナメル質が厚く、健康な状態に保たれているためです。逆に、加齢や酸蝕症などでエナメル質が薄くなると、内側の象牙質の色がより強く透けて見えるようになり、歯が黄ばんで見えたり、透明感が失われたりします。セラミック治療で自然な美しさを再現するためには、このエナメル質の持つ繊細な「透明の層」をいかに模倣するかが極めて重要。単に白い素材を使うのではなく、光を巧みに操る層構造を再現してこそ、本物の歯と見分けがつかないほどの仕上がりが可能になるのです。

 

・歯の基本的な色を決める「象牙質」の役割

歯の美しい透明感を司るのが表面のエナメル質だとすれば、その歯の基本的な「色合い」を決定づけているのが、エナメル質の内側にある「象牙質(ぞうげしつ)」です。エナメル質が半透明であるのに対し、象牙質は少し黄色みを帯びた乳白色をしています。私たちが認識している「歯の色」とは、実はこの象牙質の色がエナメル質というフィルターを通して透けて見えている状態なのです。そのため、人によって肌の色が違うように、歯の色にも個人差があるのは、主にこの象牙質の色が一人ひとり異なるためです。少し赤みがかった色調の方、黄色みが強い方、グレイッシュな色調の方など、そのバリエーションは非常に豊かです。この象牙質の色が、その人の歯のキャラクター、いわば個性そのものを形作っています。セラミック治療において色を合わせる際、私たちはまず、患者様の象牙質がどのような色調を持っているのかを正確に見極めることから始めます。このベースとなる色を的確に捉えなければ、いくら表面の透明感を再現しても、どこかチグハグな印象になってしまいます。高品質なセラミック補綴物は、この象牙質の色を再現する層と、エナメル質の透明感を再現する層を別々に作り、それらを重ね合わせることで、天然歯の持つ複雑な色構造を忠実に再現しているのです。

 

・歯の先端、中央、根元で異なる色のグラデーション

一本の歯をじっくりと観察したことはありますか?もし機会があれば、鏡の前でご自身の前歯をよく見てみてください。きっと、歯が均一な一色ではなく、場所によって微妙に色が異なっていることに気づくはずです。まず、歯の先端部分(切縁部)。ここは内側の象牙質が薄いため、エナメル質の半透明な性質が最も際立ち、光にかざすと少し青みがかって透き通って見えることがあります。この部分は「切端透明層(せったんとうめいそう)」とも呼ばれ、若々しく健康的な歯の象徴でもあります。次に、歯の中央部分(歯冠中央部)。ここは象牙質が最も厚いエリアであり、その歯本来の基本的な色調が最も強く現れる部分です。そして、歯ぐきに近い根元の部分(歯頚部)。ここはエナメル質が薄くなり、象牙質の色がより濃く反映されるため、中央部に比べて少し色が濃く、彩度が高くなる傾向があります。このように、天然歯は先端の透明感から中央の色味、そして根元の深みへと続く、非常に滑らかで複雑な色のグラデーションを持っています。この自然な階調を無視して、セラミックを単一色で作ってしまうと、途端に人工的な印象を与えてしまいます。真に美しいセラミックとは、この一本の歯の中に存在する色彩の物語を、丁寧に読み解き、忠実に再現したものでなければならないのです。

 

周りの環境にも影響される?色合わせを狂わせる意外な落とし穴

・クリニックの「照明」が与える影響(自然光と蛍光灯での見え方の違い)

セラミックの色合わせを行う際、私たちが最も神経を使う要素の一つが「光」です。なぜなら、物の色は光源の種類によって驚くほど見え方が変わってしまうからです。例えば、晴れた日の屋外で見る色と、オフィスの蛍光灯の下で見る色が全く同じに見えない経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。これは「演色性」という光の性質によるもので、歯の色も例外ではありません。歯科医院の診療室で使われている照明は、一般的に蛍光灯やLEDが主流ですが、これらの人工光の下で完璧に色を合わせても、一歩外に出て自然光の下で鏡を見ると「あれ?なんだか色が違う…」と感じてしまうことがあります。自然光はあらゆる色をバランス良く含んでいるのに対し、人工光は特定の波長の光が強いため、色の見え方に偏りが生じてしまうのです。そのため、真に精密な色合わせを行うには、診療室の照明だけでなく、窓際で自然光を取り入れた状態でも確認することが不可欠です。当院では、複数の光源下で繰り返し色を確認することはもちろん、必要に応じて屋外の光に近い色を再現できる特殊なライトを使用するなど、あらゆる環境下で調和する色を見つけ出すための工夫を凝らしています。これは、患者様が日常生活の様々なシーンで、心から笑顔に自信を持てるようにするための、私たちのこだわりです。

 

・時間帯や体調、見つめる時間によっても変化する色の認識

実は、歯の色の見え方は、周りの環境だけでなく、それを見ている私たち自身の状態によっても微妙に変化します。人間の「眼」は非常に高性能なセンサーですが、時に疲労や錯覚を起こすことがあるのです。例えば、朝と夕方では、太陽光の色温度が異なるため、歯の色の見え方も変わってきます。一般的に、日中の太陽光が最も色の判断に適しているとされています。また、ご自身の体調も無関係ではありません。疲れている時や寝不足の時は、色彩を正確に識別する能力が低下することが知られています。さらに、意外と知られていないのが「眼の順応と疲労」です。同じ色を長時間じっと見つめ続けていると、次第にその色に対する感度が鈍くなり、正確な判断が難しくなってきます。プロの現場では、色の判断に行き詰まった際、一度グレーのボードなどを見て眼をリセットするというテクニックを使うほどです。これらの要因を考慮せず、一度の確認だけで色を決めてしまうのは非常にリスクが高い行為です。私たちは、患者様の体調が良い時間帯にご来院いただくことをお勧めしたり、短時間で集中して確認作業を行ったりと、人間の感覚の特性まで理解した上で、最も正確な判断ができる条件下で色合わせを行うよう徹底しています。

 

・お口紅やファンデーションなど、当日のメイクが与える錯覚

セラミックの色合わせを行う当日に、ぜひ患者様にご協力をお願いしたいことがあります。それは、できるだけナチュラルメイク、あるいはお化粧を控えてご来院いただくことです。これは決して、お化粧が悪いということではありません。色のプロフェッショナルとして、より正確な「歯の色」を判断するために不可欠なプロセスなのです。特に、鮮やかな色の口紅やリップグロスは、「色の対比効果」によって歯の色に大きな影響を与えます。例えば、赤みの強い口紅を塗っていると、その補色(反対色)である緑みが歯の色に加わって見え、実際よりも歯が白く、あるいは青みがかって見えてしまう錯覚が起こります。また、ファンデーションの色によってもお顔全体のトーンが変わり、歯の色の印象は左右されます。普段のメイクに合わせた色が良いのでは?と思われるかもしれませんが、色合わせの基準となるのは、あくまでもお化粧を落とした素肌の状態です。その基準となる色を正確に把握した上で、普段のメイクをした時にどう見えるかをシミュレーションし、最終的な色合いを決定していく。この手順を踏むことで、すっぴんの時も、お化粧をした時も、どんなシーンでも美しく調和する理想のセラミックを作ることが可能になるのです。ご協力をお願いするのは少し心苦しい部分もありますが、全ては最高の仕上がりを実現するため。ご理解いただけますと幸いです。

 

色合わせの精度は”眼”と”経験”で決まる-歯科医師のシェードテイキング技術

・ただ色見本を当てるだけではない、歯科医師が行う精密な色の分析

「シェードテイキング」とは、セラミックの色を決めるために、患者様の歯の色を専門的に分析・記録するプロセスのことです。この作業は、単に「シェードガイド」と呼ばれる色見本を歯の横に当てて、一番近いものを選ぶといった単純なものでは決してありません。それは、いわば色彩のプロファイリング。熟練した歯科医師は、その歯が持つ複雑な色彩情報を、あらゆる角度から多角的に読み解いていきます。まず、隣り合う歯、向かい合う歯、そしてお顔全体との調調和はどうか。歯の先端の透明感はどの程度か、根元に向かってどのようなグラデーションを描いているか。歯の表面には、白い斑点や微細なヒビ、特徴的な縞模様など、その歯だけの個性的なキャラクターラインは存在しないか。これらの情報を一つひとつ丁寧に観察し、分析し、記録していくのです。この緻密な情報収集こそが、後の工程で歯科技工士が生命感あふれるセラミックを製作するための、最も重要な設計図となります。私たちは、このシェードテイキングを、治療の精度を左右する極めて重要な医療行為と位置づけ、一切の妥協なく、持てる知識と技術のすべてを注ぎ込んでいます。

 

・歯の「彩度」「明度」「色相」を見極める専門的な視点

色を正確に表現するためには、それを構成する要素を分解して理解する必要があります。美術の授業で習った記憶があるかもしれませんが、色には「色の三属性」と呼ばれる基本的なものさしが存在します。それは「色相(Hue)」「明度(Value)」「彩度(Chroma)」の三つです。
・色相(Hue):赤み、黄み、青みといった「色の種類」のことです。日本人の歯は一般的に、少し赤みがかった黄み(A系統)や、標準的な黄み(B系統)に分類されることが多いです。
・明度(Value):色の「明るさ」の度合いです。明度が高いほど白に近づき、低いほど黒に近づきます。これが低いと歯は暗く、くすんだ印象になります。実は、お口の中で歯の印象を最も左右するのは、この明度だと言われています。
・彩度(Chroma):色の「鮮やかさ」や「濃さ」の度合いです。彩度が高いほど色はビビッドに、低いほど無彩色(グレイッシュ)になります。加齢とともに歯の彩度は増す傾向にあります。

歯科医師は、シェードテイキングの際に、これらの三属性を瞬時に見極め、分析しています。「この歯はA系統の色相で、明度はやや高め、中央部の彩度は標準的だが、歯頚部は少し彩度が高い」といったように、専門的な言語で色をデータ化していくのです。この三つのものさしを正確に使いこなす能力がなければ、感覚的な「なんとなく近い色」を選ぶことはできても、真に調和する色を論理的に導き出すことはできません。

 

・数多くの症例から培われる、微妙な色合いを読み解く経験値

最終的に、セラミックの色合わせの精度を決定づけるのは、歯科医師がこれまでに積み重ねてきた「経験値」に他なりません。どれだけ優れた機材や材料があっても、それを使いこなし、最終的な判断を下すのは人間の「眼」と「知識」だからです。これまで何百、何千という症例と向き合い、様々な患者様の歯の色を見てきた経験は、いわば膨大な色のデータベースとして歯科医師の中に蓄積されています。そのデータベースがあるからこそ、「この方の肌の色なら、少し明度を抑えた方が自然に見えるだろう」「この年齢であれば、先端の透明感を少し強調すると若々しい印象になる」といった、教科書には載っていない、一人ひとりの個性に合わせた微調整が可能になるのです。また、成功例だけでなく、過去の「もう少しこうすれば良かった」という経験も、次なる治療をより良いものにするための貴重な財産です。私たちは、数多くの患者様の笑顔を創り出してきたという自負と責任を胸に、その経験のすべてを、これから出会うあなたのための一本に注ぎ込みます。その経験こそが、マニュアル通りの治療では決して到達できない、オーダーメイドの自然な美しさを実現するための、最大の武器であると確信しています。

 

見えない部分の立役者-精密な色再現を担う歯科技工士との連携

・歯科医師から託された情報を元に、セラミックを製作する専門家

歯科医院でセラミック治療の型採りや色合わせが終わった後、そのバトンを受け取る専門家がいることをご存知でしょうか。それが「歯科技工士」です。彼らは、患者様が直接お会いする機会は少ないかもしれませんが、精密で美しいセラミック補綴物を完成させる上で、欠かすことのできない重要なパートナーです。歯科医師がシェードテイキングによって集めた、歯の色相・明度・彩度、透明感の度合い、表面の微細な特徴といった膨大な情報。歯科技工士は、その専門的な情報を記した「技工指示書」や口腔内写真を丹念に読み解き、いわば設計図から立体的な芸術作品を創り出すアーティストのような存在です。単に指示書通りに作るだけではありません。写真から患者様のお顔立ちや雰囲気を想像し、「この方には、もう少し丸みを持たせた方が優しい印象になるだろう」「この隣の歯の質感に合わせるには、このパウダーを使おう」といった、職人ならではの感性と創造性を働かせます。歯科医師が「診断と設計」のプロフェッショナルなら、歯科技工士は「製作」のプロフェッショナル。この両輪が完璧に噛み合ってこそ、患者様に心からご満足いただけるセラミックが誕生するのです。

 

・何層にも色を塗り重ねて、天然歯の持つ深みを再現する繊細な技術

天然歯が持つ、吸い込まれるような深みと生命感。これを人工物であるセラミックで再現するために、歯科技工士は驚くほど繊細で根気のいる作業を行っています。それは、まるで一枚の絵画を描き上げるかのようです。まず、歯の土台となる金属やジルコニアのフレームの上に、光を遮断するためのオペーク(不透明)陶材を薄く焼き付けます。次に、歯の基本的な色となる象牙質の色(デンティン色)のセラミックパウダーを盛り付け、さらにその上に、エナメル質の透明感を再現するパウダーを重ねていきます。これだけでも単純な作業ではありませんが、熟練の歯科技工士は、ここからさらに魔法をかけます。歯の先端には青みがかった透明色のパウダーを、歯の根元には少し彩度の高いオレンジ系のパウダーを。歯の表面に見られる白い斑点を再現するために、特殊なステイン(着色材)をごく少量だけ乗せることもあります。このように、何種類もの異なる色や性質を持つセラミックパウダーを、ミリ単位以下の精度で何層にも、何層にも塗り重ね、その都度、高温の炉で焼き固めていくのです。この気の遠くなるような「築盛(ちくせい)」と「焼成(しょうせい)」の繰り返しによってのみ、天然歯と見分けがつかないほどの複雑な色彩と質感が生まれます。

 

・歯科医院と技工所の密なコミュニケーションが品質を左右する

どれだけ優秀な歯科医師と、どれだけ卓越した技術を持つ歯科技工士がいても、両者の間に円滑なコミュニケーションがなければ、最高のセラミックは生まれません。なぜなら、技工指示書や写真だけでは伝えきれない、微妙なニュアンスというものが必ず存在するからです。「写真では黄色く見えるけれど、実際はもう少し赤みが欲しい」「先端の透明感は、この写真のイメージよりも少しだけ抑え気味に」といった、言葉や感覚でしか伝えられない情報を、いかに共有できるか。これが、最終的な仕上がりのクオリティを大きく左右します。質の高い治療を追求する歯科医院は、必ず信頼できる特定の歯科技工所と長年にわたる強固なパートナーシップを築いています。日頃から電話やメールで頻繁に意見交換を行い、時には歯科技工士が直接クリニックに来て、患者様の歯の色を一緒に確認(立ち合い)することもあります。こうした密な連携があるからこそ、「先生が求めているのは、こういうことですね」という”あうんの呼吸”が生まれ、設計図に込められた歯科医師の意図を120%汲み取った補綴物が完成するのです。

 

客観性を高めるデジタル技術の活用と、その可能性

・客観的なデータで色を測定する「分光測色器(シェードスキャナー)」の役割

これまでセラミックの色合わせは、歯科医師の熟練した「眼」と「経験」に頼る部分が非常に大きい世界でした。もちろん、その職人技ともいえる感覚は今でも最も重要な要素ですが、人間の眼には、その日の体調や周囲の環境によって微妙なブレが生じる可能性があることも事実です。そこで、伝統的な手法に「客観性」という強力なサポートを加えるために活用されているのが、「分光測色器(シェードスキャナー)」と呼ばれるデジタル機器です。これは、歯に特殊な光を当て、反射してきた光の波長を精密に分析することで、その歯の色を「数値データ」として客観的に測定する装置です。人間の眼が「少し黄みがかった明るい色」と感じるものを、機械は「色相:A2、明度:75、彩度:3」といったように、誰が見ても同じ解釈ができる共通言語に変換してくれます。これにより、歯科医師の感覚的な判断に、揺るぎないデジタルの裏付けが加わり、色合わせの精度と再現性の向上が期待できます。特に、複数の歯の色を比較したり、治療の前後で色の変化を記録したりする際に、その有用性が発揮されます。私たちは、こうしたデジタル機器を適宜活用することで、勘や経験だけに頼らない、より科学的根拠に基づいた精密な色合わせを目指しています。

 

・口腔内スキャナーで得た歯の形態・色調データの活用

近年、歯科医療の分野でデジタル技術の応用が進んでいますが、その一つに「口腔内スキャナー」があります。これは、ペン型の小さなカメラでお口の中をスキャンすることで、歯の形や噛み合わせを精密な3Dデータとして取得できる装置です。従来の、粘土のような材料を使った型採りが苦手な方にとっても、負担の少ない方法として選択されることがあります。この口腔内スキャナーの中には、歯の形態データと同時に、その「色調データ」まで取得できる機能を備えたものもあります。スキャンした歯の3Dモデル上に、実際の歯の色がリアルに再現されるため、歯科医師はモニター上で歯をあらゆる角度から回転させながら、色調を詳細に確認することができます。このデジタルデータを歯科技工所とオンラインで共有することで、技工士はまるで患者様の歯が目の前にあるかのように、立体的に色や形を把握しながら作業を進めることが可能になります。これにより、情報伝達の正確性を高め、より緻密なセラミック製作へと繋げることができます。当院でも、こうしたデジタル技術を導入し、治療の快適性と精度の両方を高めるための選択肢をご用意しています。

 

・人の眼による感性と、デジタル機器による客観性の融合

デジタル技術の発展は目覚ましいものがありますが、私たちは「機械が人間の仕事をすべて代替する」とは考えていません。セラミック治療における理想の姿は、熟練したプロフェッショナルが持つ「感性」と、デジタル機器が提供する「客観性」を、高い次元で融合させることだと確信しています。例えば、シェードスキャナーが示す数値データは、間違いなく客観的です。しかし、そのデータをベースに、「この患者様のお顔立ちなら、もう少し明度を上げた方が若々しく見えるだろう」「データ上はA2だが、隣の歯との調和を考えると、わずかに赤みを加えた方がより自然になる」といった最終的な微調整を加えるのは、やはり経験豊かな人間の「眼」と「美的感覚」です。機械は「正確な色」を提示するのに役立ちますが、人間は「最も調和のとれた美しい色」を判断することができます。

 

セラミックの色合わせでよくあるご質問

Q. とにかく一番白い色にすれば綺麗になりますか?

A. 「せっかくなら一番白い歯にしたい」というお気持ちは、とてもよく分かります。しかし、必ずしも「一番白い色=一番美しい仕上がり」とならないのが、セラミック治療の奥深いところです。お顔の美しさが目・鼻・口などのパーツの調和によって生まれるように、お口元の美しさも、治療する歯一本だけでなく、隣り合う歯、歯ぐき、唇、そしてお顔全体の肌の色との「調和」が取れていて初めて生まれます。例えば、周りの天然歯が落ち着いたアイボリー系の色合いなのに、一本だけを蛍光灯のような真っ白にしてしまうと、その歯だけが浮いて見え、かえって不自然な印象を与えてしまう可能性があります。私たちの目指すゴールは、単に白い歯を作ることではなく、あなたという個性の中で最も自然に輝く「あなただけの美しい色」を見つけ出すことです。プロの視点から、お顔全体とのバランスを考慮した最適な色の明るさ(明度)をご提案させていただきますので、一緒に理想の色を見つけていきましょう。

 

Q. 一度治療したら、もう色は変えられないのでしょうか?

A. セラミックの歯は、一度歯にしっかりと接着すると、後から色だけを変えることは困難です。セラミックは陶材を焼き固めて作られているため、表面に色を塗り足したり、削って色を薄くしたりすることはできません。だからこそ、私たちは装着前の「シェードテイキング(色合わせ)」と「試適(トライイン)」の工程を非常に重要視しています。患者様が心からご納得いただけるまで、何度でも色の確認を行い、最終的なゴールを共有した上で装着に進みます。
ただし、もし将来的に「周りの天然歯の色が変わってきて、セラミックとの色の差が気になってきた」という場合には、いくつかの対処法があります。例えば、周りの天然歯をホワイトニングしてセラミックの色に近づける方法や、もし色の不調和がどうしても気になる場合は、セラミック自体を新しいものに作り替えるという選択肢もございます。治療後も気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。長期的な視点で、あなたの笑顔をサポートさせていただきます。

 

Q. 保険の歯とセラミックでは、色の再現性が違いますか?

A. はい、色の再現性には明確な違いがあります。保険診療で用いられることの多い「CAD/CAM冠」や「硬質レジン前装冠」は、主にプラスチック系の素材で作られています。これらの素材は、色のバリエーションが限られており、基本的には単一の色(単色)での製作となります。そのため、天然歯が持つような先端の透明感や、根元に向かって色が濃くなる自然なグラデーション、表面の微細な質感を再現することは非常に困難です。また、プラスチックは水分を吸収しやすいため、経年的に変色しやすいという特性もあります。
一方、自費診療のセラミックは、様々な色調や透明感を持つ陶材(パウダー)を、歯科技工士が何層にも重ねて焼き上げることで製作します。これにより、天然歯と見分けがつかないほど複雑で深みのある色合いと、生命感あふれる質感を忠実に再現することが可能です。変色もほとんど起こらないため、長期的に美しい状態を維持できます。どちらを選ぶかは患者様のご判断ですが、特に人から見える部分の歯で、より自然で美しい仕上がりを追求されるのであれば、セラミックが優れた選択肢になると言えるでしょう。

 

 

 

監修:関口デンタルオフィス

住所:埼玉県さいたま市北区宮原町4-134-24

電話番号:048-652-1182

*監修者

関口デンタルオフィス

院長 関口 亮

経歴

・2008年 日本大学歯学部卒業
日本大学歯学部臨床研修部入局

・2009年 日本大学歯学部補綴学第一講座入局
専修医
顎関節症科兼任

・2014年 同医局退局
関口デンタルオフィス開院

所属学会

日本補綴歯科学会

日本口腔インプラント学会

*スタディークラブ

JSCT(Jiads Study Club Tokyo)

CIDアクティブメンバー(Center of Implant Dentistry)

 

PAGE TOP